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音楽のまとめ

People In The Box の曲名と芥川賞小説に共通する「ニムロッド」とは?

第160回芥川賞 受賞作「ニムロッド」

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

 

2019年1月16日に発表された第160回芥川賞を受賞した上田岳弘「ニムロッド」。

 

3度目の候補での受賞となり、2月下旬に行われる贈呈式で、正賞の時計と副賞の100万円が贈られるとのこと。

 

同作は、IT企業で仮想通貨(ビットコイン)を採掘する新規事業を任された社員・中本哲史が主人公で、恋人の女性やニムロッドと呼ばれる同僚らが登場し、さまざまなものが情報化した社会で生きる人類について描いた作品です。

 

それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。 あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。すべては取り換え可能であったという答えを残して。

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作者 上田岳弘(うえだたかひろ)とは

1979年生まれ、兵庫県出身。早稲田大学法学部卒。

 

2013年「太陽」で新潮新人賞を受賞しデビュー。

2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞を受賞。

2018年「塔と重力」で芸術選奨新人賞を受賞

 

ほかに「太陽・惑星」「私の恋人」「異郷の友人」などの著書があります。

 

SF的とも評される手法で、既存の文学の枠組みを広げる観念的な作風は新超越派とも称されます。

 

小説タイトルは、People In The Box の楽曲名から

Citizen Soul(初回限定盤)(DVD付)

 

小説タイトルは3ピースバンド People In The Box が2012年にリリースしたミニアルバム『Citizen Soul』に収録された楽曲「ニムロッド」から取られています。

 

受賞後の会見で明かされたもので、かねてからこのタイトルで小説を書きたいと思っていたということです。

 

バンド「People In The Box」とは

2005年に結成された、福岡県北九州市出身の3ピース・バンド。

 

メンバーは波多野裕文(Vo.G)、福井健太(Ba)、山口大吾(Ds)。

 

2008年に福井健太(Ba)が加入し現体制に。2009年のミニ・アルバム『Ghost Apple』でメジャー・デビューを果たしました。

 

3ピースの限界にとらわれない、幅広く高い音楽性と、独特な歌の世界観が持ち味。

 

すべて日本語歌詞で楽曲が制作されていることや、変拍子や転調を変幻自在に操る音楽性などが特徴です。

 

文学的な歌詞で知られる波多野裕文(Vo.G)

 

かねてから、波多野裕文がつづる歌詞が文学的かつ哲学的として知られる People In The Box 。

 

「ニムロッド」も例外ではなく、本人が歌詞の解説をしない主義なので、タイトルや歌詞の意味は受け取り側次第ということになります。

 

あの子は木に登って 火照った大地を見晴らした
どこかに僕みたいな道化師はいませんか
飛び交うバスケットボール飛行船は空白をめざす
足を滑らせたら パラシュートは開かない
「ママ、あの高見へと連れて行って
聖なる頂へと
眺めをみてみたくて
でも どうせ みせてはくれないよね
突然の風雨やらで
ほら誰かが引きずり降ちた
痕跡があるでしょう
科学はいい線までいった
愛と迷信をスポンサーにして
ルール履き違えたまま
見て 足跡 拡がっていくよ」
あの子は木に登って 黒い大地に息を呑んだ
巨大なバグのなかプログラムうごめいてる
歴史はそれ自体がスケープゴートの様相だよ
空へと吹き上げる風は意思を孕んでいる
言葉が鳥のように晴れた空を飛んでいる
東京に溢れるこのくだらない信仰のなかで
僕らは議論を白熱させるくせに、
あの太陽が偽物だって
どうして誰も気づかないんだろう
飛び交うバスケットボール飛行船は空白をめざす
8月、目隠しを課せられた母親たち
あの子は木に登って、何か言った
足を滑らせたら パラシュートは開けない
 

 

そして、タイトル ニムロッド(Nimrod)にもいろいろな意味があります。

 

まずは旧約聖書『創世記』に登場し、世の権力者となった最初の人であり、多くの都市を建設したとされる人物。

 

ここから強いものの象徴としてなのか、戦闘機、戦艦、自走砲、ミサイルなどの名前になっています。

 

さらに、1997年にリリースされたパンク・バンド GREEN DAY の 5th アルバムタイトルで聞き覚えがあるという音楽ファンの方もいるかもしれません。

 

そんななか上記の歌詞の内容からニムロッドは、科学を支配できていると錯覚し、武力を行使している権力者に対する警鐘を鳴らしている曲のように感じます。

 

勝手な解釈ですが、歌詞の一節

 

科学はいい線までいった 愛と迷信をスポンサーにして ルール履き違えたまま』を
 
情報化社会はいい線までいった 愛と迷信をスポンサーにして ルールを履き違えたまま』

 

に置き換えたイメージが小説「ニムロッド」の中にあるのかなと推測してしまいます。